“素材”が補完し合うことで生まれる、最高の一皿とは。シェフが見つめる地域活性の本質。

COLUMN
2019/01/30


価格高騰や調理の手間などもあり、日本では食べる機会になかなか巡り合わないナマコ。奇妙なその見た目から「食わず嫌い」の方もいらっしゃるかもしれません。今回は地域の食材を輝かせるプロの前田伸一シェフに、新しいナマコ料理を考案して頂きました。その土地に向き合い、自分なりの和食の形を模索し続けてきたシェフの料理から見えてきたものとは…?


ナマコ酢だけじゃない。バラエティー豊かなナマコ料理

中華料理には及びませんが、かつては日本でもナマコを様々な料理に活用していたと言われています。なんと300年以上前の料理書に、すでにナマコが登場していました。





当時の料理書には「水和え、青和え、煮物、削り物、汁物」という5つの記述が見られます。
イメージしやすいように解説してみると…。水和えは“なます”の一種。青和えはナマコをたまり味噌とダシで煮込み、茹でた青豆をすりつぶして濾し、味付けしたものと和えた料理。煮物は雑煮やダシで煮たもの。削り物は花カツオのように削ったもの。汁物は味噌汁やすまし汁など。
こうやって見るとナマコ料理は実にバラエティー豊かです。


 

最高の食感を求めて

ナマコの魅力をより多くの人に知ってもらいたい。そんな私たちの想いを形にしてくださったのが、倶知安町にある杏ダイニングのオーナーシェフ・前田伸一さんです。
昨年12月、満を持して完成したのが「岩宇産ナマコとアワビとホタテの薬膳スープ」。美しい白磁の器を開けると、白い湯気とともにダシの香りがふんわり漂います。





スープの決め手となるのは、岩宇産アワビとホタテを日本酒(ニセコ酒造)で炊いて抽出したダシ。具材にはキットブルーの乾燥ナマコ(北海道産高級干海参)、アワビとホタテ、原木シイタケ(新得町産)がたっぷり入っており、素揚げした無農薬の寒じめホウレンソウ、ショウガ(共に倶知安町産)も添えられています。





「最もこだわったのはナマコの食感です。硬すぎず、柔らかすぎず、絶妙な歯ごたえに仕上げました。乾燥ナマコの扱いで難しいのが“戻し方”で、戻した後の熱の加え方によっても食感が変化します。正しい温度と時間を見つけるまでに試行錯誤しましたね」


伝統的な方法であればナマコを戻すのに5〜7日ほど時間が掛かっていましたが、前田シェフは研究を重ね、戻し時間を30時間まで短縮する方法を確立。何度で何分加熱すれば、どのような歯ごたえになるかを明らかにし、ナマコの特長を最大限に引き出しました。


地域の素材を最大限に活用する

前田シェフが料理に向き合う上で大切にしていること。それは、食材が生み出される土地や作り手を知り、そこでとれる食材同士を掛け合わせ、最高の一皿を作ることです。





「僕が最初に勉強した料理は、江戸前鮨。江戸前には『東京の目の前の海で獲れるものを使う』という意味がありますが、このコンセプトがとても好きで。オーストラリアでレストランを開いた時から現在まで、地域の食材を使って自分なりの和食を探求してきました。
ナマコは機能性に価値が高い反面、旨味が強い食材ではありません。ですから、同じ海で獲れたホタテやアワビが持つ力を使って素材同士で補完してあげる。何より地域の中にある食材を組み合わせると、自然と栄養バランスの良い料理を作ることができるんですよ」


今回のスペシャルメニューは、同じ海で捕れた海産物と地域の農産物を組み合わせた“後志エリアのスープ”。まさにスーパー(完璧な)フードです。





前田シェフは2018年11月、積丹半島地域活性化協議会(会長:高橋昌幸神恵内村長)より、「ナマコ大使」に任命されました。今後はナマコの知名度向上のほか、岩宇の魅力を広く発信していく役割も担います。


「最終目標は岩宇の海産物輸出を成功させるだけでなく、多くの方にこの地域に足を運んでもらうこと。岩宇には歴史的な建造物も残っていますから、地域の食材を生かしたスペシャルメニューを当時の雰囲気の中で味わってもらうのもいいですね。観光と食など様々な要素を組み合わせれば、まだまだ面白いことができそうな気がしませんか?」



▲左からキットブルーの池田取締役、神恵内村の高橋村長、前田シェフ、後志総合振興局の勝木局長


料理も地域活性も、地域の“素材”が補完し合うことで、これまでにない新たな魅力が創造できる。前田さんが作る一皿一皿には、そんな本質が詰まっている気がします。


スペシャルメニューが食べられるのは2019年3月末日まで。美味しくて健康的なスーパーフードを、ぜひ一度ご賞味ください。最後の一滴まで飲み干したくなること請け合いです。


●杏ダイニング
https://www.kiniseko.com/ja/dining
北海道虻田郡倶知安町字山田183-43
0136 22 5151
※営業時間やご予約方法はホームページでご確認ください


参考文献:赤嶺淳(2010)「ナマコを歩くー現場から考える生物多様性と文化多様性」