ニシンをめぐる2つの物語 後編 ー 魚の食文化を磨く人 ー | 株式会社キットブルー

ニシンをめぐる2つの物語 後編 ー 魚の食文化を磨く人 ー

COLUMN
2021/04/28

岩内地域に莫大な富をもたらしたニシン。このエリアを語る際にキーワードになる、お馴染みの魚です。今回のブログはニシンに関わりのある2人のお話。地域の歴史の語り部となり、地域資源の魅力を磨き・引き出す人たちに会いに行きました。後編は岩内町の一八興業水産(株)をご紹介します。

 

ニシン料理のイメージを覆して

前編では泊村にある「鰊御殿とまり」から、ニシンがもたらした富や産業、暮らしの記憶と、現代に岩宇の歴史を語りつなぐ人をご紹介しました。
 

ニシンの話題に触れたなら、やはり食べてみたくなるというもの。皆さんはニシンを食べたことがありますか?
 

焼き魚として食べるのはもちろん、北海道のニシン料理と言えばキャベツとともに漬けた「ニシン漬け」。そして、甘露煮にしてお蕎麦にのせた「ニシンそば」が有名です。北前船で交易があった京都が発祥とも言われていますが、道内でも食べられるお店がいくつもあります。
 

農林水産省Webサイト
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/nishinsoba_hokkaido.html

 
ニシンはDHAやEPAなどが豊富で健康の維持にも期待が持てる魚ですが、小骨が多く、独特なくさみが感じられるので苦手…という人もいらっしゃるかもしれません。残念ながら、日本では消費が年々落ち込んでいるという側面もあります。
 
岩宇エリアでは岩内町を中心に水産加工業が発展し、ニシン漬けや甘露煮の原料となるニシンの干物「身欠きニシン」や塩カズノコなどが製造されてきました。
 
身欠きニシンは「日本一の生産量と品質」と言われており、地元の海でニシンの水揚げが激減した後も、道内各地や世界で水揚げされるニシンを原料としながら製造が続けられています。

身欠きニシンのほかにはどんな商品があるだろう…と岩内町の道の駅をのぞいてみると、赤色のパッケージでひときわ目を引く「にしんすぱ」と「さかなかな」を発見。
 
さらに店内をぐるりと見回すと「にしんのおかげ」「にしん伝心」など、思わず手を止めてしまうネーミングの商品が並んでいます。

 
中でも気になったのが「にしんすぱ」。ニシンとパスタ??洋風?これまで和食のイメージが強い魚であったがゆえに味の想像がつかなかったので、早速購入して食べてみました。すると…
 

あれ??骨、あったっけ?と思うほど、小骨が気にならない「にしんすぱ」。ニシンの風味も感じますが、唐辛子やニンニクを加え、オイル漬けにして“ペペロンチーノ風”にすると、なるほど気にならない!洋風料理にしても食べやすく、こんなに美味しい魚だったとは…。目からウロコとは、まさにこのことです。
 

ニシンを熟成発酵させてつくるニシン味噌「にしんのおかげ」はごはんのおともにぴったりで、ソースやスープのアクセントとしても使える万能調味料。ニシンとスケソウダラをボール状にしてトマトソースで調味した「さかなかな」。ごはんに混ぜるだけで完成する「にしんめし」。

これらのニシンを使った商品は手軽さに加え、アレンジメニューが豊富なのも嬉しいポイントです。▶▶︎︎アレンジレシピはこちらから
 
 

地域が豊かになるためのアイテムづくり

ユニークな商品を開発・製造し、ニシンの新しい食べ方を提案しているのは、岩内町にある一八興業水産(株)。地元では「いっぱちさん」の名で親しまれている創業107年の企業です。
 
今までニシンを食べたことがない人、ニシンに苦手意識を持っている人、若者や子育世代の女性などもっと多くの人たちにニシンを食べてもらい、魅力を伝えたい。そんな思いで新しい商品開発を始めたのが3代目の紀 哲郎代表でした。

今回ご紹介した「にしんすぱ」は、海洋深層水(水深300mからくみ上げ)とチーズを製造するときに出るホエイ(乳清)を調合した液に漬け込むことで、ニシン独特のくさみを取っています。

文字にすると簡単に聞こえるかもしれませんが、開発には2年の時間がかかったそう。ニシンのサイズや乾燥度合い、調味液の配合割合、塩分の調整などの課題に直面する日々でした。
 

とは言いつつも、新しいアイデアで商品を次々と開発している紀代表。よっぽど魚のことが好きで、この仕事は天職なのでは?と尋ねてみると、

「いえいえ、まったく。天職だとは思っていないですよ。正直な話、子どもの頃から魚があまり好きじゃなくて手伝いから逃げていましたから(笑)」と、紀代表からは意外な答えが返ってきました。

「ですが魚が苦手な人の気持ちはよく分かるので、何とかして食べる側の気持ちを汲み取った商品を作りたいと考えてきました。味やにおいが苦手とか、骨が多くて食べにくいとか…。うちの工場で働いている女性たちの話を聞くと、子育てをしながら働いた後に魚を料理するのはとても面倒らしいんです。

子育て世代や若い人、魚嫌いの人たちに向けて調理が簡単で、美味しく魚を食べてもらいたい。なおかつ、高すぎず、安心して食べられる商品を…という思いが商品開発の原点にありますね」

ニシンの商品のほかにも、同社では「一八食堂」のブランド名でプロダクトを開発。前浜でとれた「地元ではあまり食べられていない」魚を、温めるだけで時短・手軽に食べられるレトルト商品へと変身させています。

魚種はソイやカワハギ、ヤナギノマイ、カスベ、カジカ、ブリなど盛りだくさん。煮付けやバジル、味噌煮、カレー味、トマト煮といったバラエティ豊かな味で楽しめる一品に仕立てています。

「市場では、いつでも綺麗に魚が売れていくわけではありません。必要な量はとれないけれど網にかかってしまい流通しにくい魚。反対に突然大量に水揚げされてしまったものや、都府県では高級魚として知られていても道内では食べる習慣がない魚も出てきます。

そういった魚を有効活用し、なおかつ一人暮らしの方や毎日忙しいお母さんたちにも使い勝手の良い商品を目指してきました」と、取締役の紀加奈子さんは説明します。

実は同社の“稼ぎ頭”は、身欠きニシンやカズノコなど「たくさん作ってたくさん売れるもの」。もちろんシンプルな商品だからこそ品質に間違いがあってはならないし、良い原料を見分けて手に入れることや鮮度保持の技術が求められます。

一方で食べやすく簡単便利な商品ほど、製造や販売にかかる手間ひまは何倍にもなるそう。

「忙しい時は休みを返上して製造することもあります。それでも、こういった商品を目当てに岩内町に来てくれる人が増えたら嬉しいですね。自分一人が儲かるのではなくて、町が豊かになっていく一つのアイテムになったらいいなと思います」と紀代表。

ニシン商品の中でも「にしんめし」は、岩内町の「高島旅館」が監修して開発した商品。地域の事業者同士が同じ方向を見て、地域が豊かになる仕組みづくりの一つとして完成した一品です。

地域資源である魚を食文化として次世代につなぎ、新しい価値として世の中に送り出す。そんな取り組みの一端を感じることができました。

 

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昭和に入りニシンの水揚げが激減してから現在まで、ニシンがもたらした歴史や文化、産業が岩宇地域から消えることはありませんでした。

そこには、地域の資源を見直して魅力を引き出し、歴史を語りつないでいる人。伝統を守りながらも地元の資源を磨き、町の産業や暮らしを次世代につないでいる人。まちづくりの糸を紡ぐ人たちがいます。
 
●一八興業水産(株)
北海道岩内郡岩内町字大浜68-7
0120-1871-18
営業時間/8:00〜17:00
定休日/日曜・祝日
ホームページ/http://www.ippachi.co.jp/
webショップ/https://ippachi.raku-uru.jp/