会社の利益は可能な限り浜へ返す。キットブルー(KIT BLUE)が“地域商社”として存在する理由。
2018/07/31
神恵内村・岩内町・泊村の3つの町村が共同で立ち上げた「株式会社キットブルー(KIT BLUE)」。地元で獲れた海産物の輸出事業を展開する私たちですが、“地域商社”としての役割は単なる物のやり取りにとどまりません。キットブルーの構想から設立まで深く携わってきた神恵内村(かもえないむら)の高橋村長に、地域の課題や会社設立の想いを伺いました。
現場を見てきたから分かる、海の変化、地域の課題
生まれも育ちも神恵内。生粋の“かもえないっ子”である高橋昌幸村長は、19歳から50年近くにわたり村に奉職してきました。「現場主義」をモットーに、現在も漁業者と密着した仕事を多く手掛けるなど、地域の海や産業の移り変わりをその目で見てきた人でもあります。
「地域の漁業の姿は、ずいぶん変わりました。神恵内をはじめ3町村はもともとニシン漁で発展した地域ですが、その後はニシンが不漁になり、私が役場に入った昭和40年代は日本海マス、スケソウダラ、秋イカなどの遠洋漁業が主力になっていました。
ところが1977(昭和52)年に施行された200海里漁業専管水域によって操業が制限され、日本海マス釣りが衰退を余儀なくされたんです。また、スケソウダラ資源も年々減少を続け、最近ではイカを獲る漁師さんたちもだんだんと減って、神恵内村では1隻を残すのみ。沖合まで出る必要がないので漁船は小型化したし、漁船数自体も少なくなってしまったよね……」
国際的な約束ごとであり、日本の漁業権を守るためでもあるとはいえ、200海里漁業専管水域は地域の水産業に大きな影響を与えました。以来、神恵内村では定置網や浅海漁業に切り替え、ウニやアワビ、ホタテ養殖なども行ってきましたが、1970(昭和45)年に2606人だった人口は、3分の1まで減少(2018年現在883人)。漁業者の数も減りつつあるのが現状です。
漁業者自らが守り育てる海、そして産業へ
一方で、海自体の環境変化も漁に影響を及ぼし始めます。その最たる現象が“磯焼け”でした。磯焼けとは、海藻類が枯れて、藻場が失われてしまうこと。魚介類の生活場所や産卵場所である海のゆりかごの藻場が減少すると、魚が寄り付かなくなったり、身入りの悪いウニが増える要因となります。村にとって浅海で獲れる魚介類は貴重な資源。これ以上の痛手はありません。
そのような背景の下、神恵内村では「藻場LANDプロジェクト」に着手。役場と漁業者が一体となり藻場を再生するプロジェクトで、魚介類のすみか作りに取り組みます。
当初は、プロジェクトに対する不安や諦めの声が上がりましたが、後ろ向きな考えを改め、自分たちが手を動かすことで村の産業を守ろうと立ち上がったのもまた、漁業者の皆さんでした。
「実はこれまでも、村では様々な漁業対策を行ってきました。でもなかなか実を結ばなかった。役場は資金面や体制を整えるお手伝いはできるけれど、海のことをよく知っているのは何をおいても漁師の皆さんです。ですから現場に立つ人が本当の意味で危機感を持ち、自らが望み、全員が一つになって取り組まなければ、このプロジェクトも産業振興事業も良い方向には向いていかないのだと気付きました。でも、このプロジェクトをきっかけに、漁師の皆さんの意識が変わったと感じているんですよ」
頑張っている人が報われる地域に
天候や波を読み、自然を相手にする漁業は、私たちが想像する以上に過酷な仕事です。普段の業務に加え、海を育て、守る作業を併行することは時間も手間も掛かり、漁業者の負担となるのは間違いありません。
そんな頑張っている人たちが報われるために、何ができるだろうかー。たどり着いた答えは、生産物に付加価値を付けて販売し、漁業者の手元に1円でも多く利益が還元される仕組みづくりでした。
そして、2017年10月1日。理念に賛同した3町村と2漁協でつくる「積丹半島地域活性化協議会」が母体となり、キットブルーを設立。「獲れた魚介を卸す」という従来の“当たり前”から一歩踏み出し、消費者ニーズに応えた商品開発のほか、神恵内・岩内・泊の町村自体のブランド力を高め、漁業+αの掛け合わせの中から生まれる新しい価値の創造にも取り組みはじめています。
「キットブルーは、得た利益を何らかの形で浜へ返すことを第一に考えています。そうでなければ“地域商社”である意味がない。一次産業は国の基盤です。だからこそ、その最前線に立つ漁業者の皆さんには、金銭的にも精神的にも一番豊かな生活をおくってほしいじゃないですか。
時化で荒れ狂うときもあるけれど、この海が好きだね。それから、ここで暮らす人たちの人情が好きなんだ。地域の漁業者は本当に頑張っていますよ。私にとって、海も人も、この地域全部が誇りです」
乾燥ナマコや端境期に提供する塩水ウニなどを中心に、ゆくゆくはこの地域の生産物を丸ごと取り扱うことができたら…。キットブルーの未来図には、地域の一次産業がさらに活気あふれる姿が描かれています。そして、それを実現するために活動を続けて行きます。